ふくしまの女性たちの物語 三原由起子さん 

短歌朗読-2011年3月11日後のわたし(1)

いわき市を中心にした体験交流事業「第六回いわきフラオンパク」オープニングの23日に「福島県双葉郡浪江町友情企画」として、浪江町出身の歌人三原由起子さんの歌集「ふるさとは赤」の朗読会が開かれた。

 

短歌と共に浪江町の風景が映し出されたスクリーン。その隣で歌を詠みあげ、浪江町にまつわる自身の気持ちやエピソードを、三原さんが話すというもの。震災後の浪江町、いわき市、そして福島県。今暮らしている東京で思うこと、感じることを、ときに会場内の声を聴きながら約1時間語り合った。

三原由起子さんは、いわき光洋高等学校の出身。浪江町の自宅からいわき市に、3年間通った。だから今、浪江町には戻れないけれど、いわきがあるのが心の救いだという。「ふるさとは赤」は、大学卒業後3年間勤務した本阿弥書店から発刊。奇しくも彼女が入社1年目にして企画したシリーズものの10冊目、10年後という節目の出版である。

あぶくまの山なみ太平洋の海近くにありき生まれしところ

スクリーンに映る浪江町の海は穏やかだ。「いわきの海とも違うと私は思っていますが、みなさんはいかがですか」由起子さんが、会場に問う。浪江町請戸地区の海。「海の記憶は、人それぞれ違うでしょうね」と結び、次の歌を紹介する。

うたの道に導きくれし先生にひとりの大人として会いに行く

中学校時代の国語の先生、佐々木史恵先生に勧められ、由起子さんは歌を詠むようになる。成人式の報告のため、恩師の自宅を訪ねた20歳の由起子さんと佐々木先生の姿がスクリーンに映る。双葉郡の避難区域にある、すでに故人となった先生のお墓。「お墓参りにも行けない。歌集出版の報告にも行けない。そんな中、佐々木先生の息子さんと連絡が取れ、この本を渡すことができました」由起子さんは静かに微笑む。

誰もいない請戸の川に鮭のよは知らないままにのぼりいるらむ (鮭のよ=方言で「鮭」のこと)

浪江町に秋を告げる鮭漁。毎年9月中旬から12月中旬くらいまでの間、鮭が請戸川をのぼってくる。地元の漁師たちは、川幅いっぱいに網を流し鮭を捕る。かつて東北一の規模を誇った請戸のやな場。いまだ放射線量が高い場所もある浪江町。一時帰宅をためらっている自分。「ふるさとの景色を見た方がいいのか。まだ迷っている」と言いながら、会場にいる父に問う。父は答える。「見た方がいい」と。

たおやかに揺れるコスモスあぶくまの山なみに向く秋のしらせに

浪江町の町花はコスモスである。2010年の秋に撮影したコスモスの花が、スクリーン一面に広がる。「ふるさとは赤」の表紙にも、コスモスが描かれている。空色のカバーは、浪江の空を思わせるようである。

                                        (2へ続く)